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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)99号 判決

滋賀県滋賀郡志賀町大字今宿字舟木372番地の1

原告

株式会社 明拓システム

同代表者代表取締役

岸和雄

同訴訟代理人弁理士

田村公總

同弁護士

田倉整

内藤義三

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

清川佑二

同指定代理人

青山紘一

大里一幸

井上元廣

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が平成3年審判第1154号事件について平成6年1月20日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和61年9月1日、名称を「電飾用光源装置」(その後「エッジライトパネル」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和61年特許願第205492号)をしたが、平成2年11月22日拒絶査定を受けたので、平成3年1月17日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成3年審判第1154号事件として審理した結果、平成6年1月20日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をなし、その謄本は同年4月2日原告に送達された。

二  本願発明の要旨

透明基板一側表面における網点パタンの入射光乱反射量と、上記網点パタンの反転網目をなす透明地パタンの入射光反射量とを増減逆変化させるように、上記網点パタンにおける隣接相互に等間隔の網点位置関係を不変に維持した不変位置関係で、入射端面側から光源離隔方向面内所定位置に向けて網点パタンの網点面積を膨出径大状に無段階漸増するとともに透明地パタンの反転網目面積を収縮幅細状に無段階漸減し、上記網点パタンの網点と該網点を囲繞した上記透明地パタンの反転網目とを面積増減逆変化の相関関係としてなることを特徴とするエッジライトパネル。

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

2  これに対し、本願出願前に頒布された特開昭57-128383号公報(以下「引用例」という。)には、「透明基板と、その背面上に部分的に形成された光拡散反射体とを具備しており、該反射体は、光源から離れるに従いその径が次第に大きくなる多数の円が縦横に規則的に配置されたパターンを含み、その各円の中心点を縦横に結んだ仮想線群のうち、光源から離れる方向に延びる仮想線群は等間隔に並んでおり、光源と平行に延びる方向の仮想線群は円の径が拡大するのに伴い次第にその間隔が広がっていく、面照明装置の構成要素の一部であるパネル。」が記載されている。

3  本願発明と引用例に記載されたものとを対比すると、引用例記載の「規則的に配置された」「多数の円」も、本願発明の「網点」も、ともに「規則的に配置された多数の円」といえるものであり、引用例記載の「面照明装置の構成要素の一部であるパネル」は、本願発明の「エッジライトパネル」に相当するから、両者は、「規則的に配置された多数の円が、本願発明では隣接相互に等間隔の網点位置関係を不変に維持した網点、すなわち、各点の中心点を縦横に結んだ仮想線群が縦横等間隔にならんだものであるのに対し、引用例では、各円の中心点を縦横に結んだ仮想線群のうち、光源から離れる方向に延びる仮想線群は等間隔に並んでおり、光源と平行に延びる方向の仮想線群は円の径が拡大するのに伴い次第にその間隔が広がっていくものである点」でのみ相違し、その余の点に実質的な差異はない。

4  そこで、前記相違点について検討する。

本願発明も、引用例記載の技術も、ともに、平面光源の明るさの均一化を達成しようとするものであり、そのための手段として、引用例に記載された、光源から離れる方向に延びる各円の中心点を結んだ仮想線群を等間隔とする技術から、均一度をさらに高めるために、仮想線群の縦横の配列を等間隔とする程度のことは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願発明が上記構成を採用したことによる作用効果も、別段著しいものがあるとは認められない。

5  したがって、本願発明は上記引用例に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

四  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1は認める。同2のうち、引用例に「透明基板と、その背面上に部分的に形成された光拡散反射体とを具備している、面照明装置の構成要素の一部であるパネル」が記載されていることは認めるが、その余は争う。同3のうち、引用例記載の「面照明装置の構成要素の一部であるパネル」が本願発明の「エッジライトパネル」に相当することは認めるが、その余は争う。同4、5は争う。

審決は、引用例の開示技術についての認定を誤り(取消事由1)、本願発明と引用例記載の発明との対比認定を誤り(取消事由2)、かつ、相違点についての判断を誤るとともに、本願発明の作用効果についての判断を誤り(取消事由3)、その結果、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  引用例開示技術の誤認(取消事由1)

(1) 審決は、引用例には、「光源から離れるに従いその径が次第に大きくなる多数の円が縦横に規則的に配置されたパターン」が示されている旨認定している。

審決の上記認定は、引用例記載の図面第5図(以下、単に「第5図」ということがある。)に基づくものと考えられるが、引用例(甲第4号証)には、第5図について、「たとえば、第5図に示すように多数の直径の異なる円形状のパターンを印刷して、その印刷された部分の面積密度を各場所で変えた、すなわち面積密度を場所によって密度変調して全体としては、拡散体(7)の効果が第4図(a)と同じ上となるようにした」(3頁左下欄9行ないし14行)と説明されており、また、効果が同じとされる第4図(a)は、その図示されるところから明らかなように、光源から離れるに従いその幅が太くなる多数の線が中央に向けて配置されたパタン、すなわち櫛歯状のラインを構成する櫛歯ラインパタンである。

引用例の第5図に記載のものは、第4図(a)の櫛歯ラインパタンを、「多数の直径の異なる円形状」によって代替的に構成したものであって、円を光源離隔方向に相互に接触して一連となるように配置することにより、第4図(a)と同じ櫛歯ラインパタンを構成したものである。第5図につき審決が認定する「多数の円」は、櫛歯ラインパタンのラインを構成する構成要素としての意味があるに止まり、このラインを離れて円が独立した技術的意味を有するものではない。

また、第5図に示されている外接一連の円は、最光源側の1ケを除いて、3ケ、6ケ、5ケがそれぞれ同一径とされた上、これら同一径円群毎に「直径の異なる」ものとされている。すなわち、引用例には、「光源から離れるに従いその径が次第に大きくなる」ものではなく、「光源側から、同一径円群毎に段階的に直径が大きくなる」ものが示されているにすぎない。

上記のとおり、引用例に記載されているのは、「光源側から太さを段階的に太くするラインを構成するように同一径円群毎に直径の異なる円をそれぞれ外接状一連に連結した櫛歯ラインパタン」であって、審決の上記認定は誤りである。

(2) 審決は、引用例には、「各円の中心点を縦横に結んだ仮想線群のうち、光源から離れる方向に延びる仮想線群は等間隔に並んでおり、光源と平行に延びる方向の仮想線群は円の径が拡大するに伴い次第にその間隔が広がっていく」ものが記載されていると認定している。

審決は、第5図のパターン図形を説明するために、引用例に示されていない仮想線群なる概念を用いたものであろうが、第5図のパタンは、上記のとおり櫛歯ラインパタンであり、円はそのラインの構成要素であるに止まり、円自体に技術的意味があるわけではないから、「各円の中心点を縦横に結んだ仮想線群」といってみても何ら技術的意味はないし、引用例の開示技術を曲解するものである。

また、第5図の櫛歯ラインパタンのラインを構成する円は、横方向に中心点が一直線上に位置するものとはされておらず、位置がずれるものとして図示されているから、これを結ぶ仮想線は屈曲した線となる。このように、「光源と平行に延びる仮想線群」は引用例には示されていない。

さらに、櫛歯ラインパタンにおけるライン構成要素の外接一連の円は、同一径円群を複数連結した構成のものとされるから、同一径円群毎に段階的に径が変わるものであり、横方向の仮想線群は、同一径円群内で同一等間隔となり、同一径円群間で変化するのみである。したがって、「次第にその間隔が広がっていく」とした認定も誤りである。

2  対比認定の誤り(取消事由2)

(1) 上記のとおり、引用例の開示事項についての審決の認定は誤りであり、また、引用例の第5図の「規則的に配置された多数の円」は、本願発明の「網点」と同視することができないから、審決の一致点及び相違点の認定は誤りである。

(2) 本願発明と引用例記載のものとの間には、次のような相違点があるにもかかわらず、審決は、これを看過している。

〈1〉 本願発明は、「隣接相互に等間隔の網点位置関係」、すなわち、微小多数にして縦横とも等間隔に離隔してそれぞれ独立に配置した位置関係を保ち、かつそれぞれが独立して入射光乱反射を行う「網点」による「網点パタン」と、網点パタンに対して反転関係にあり、したがって、縦横に連続する網目をなし、かつ、入射光反射を網点の縦横位置において行う「反転網目をなす透明地パタン」によることを基本としたものである。これに対して、引用例記載のものは、縦方向に構成要素の円を外接一連に連結してラインを構成し、ラインとして入射光乱反射を行う「ライン」による「櫛歯ラインパタン」によるものであり、これと反転をなす地パタンは認識されていないが、仮にこれが入射光反射を行うとしても、それは上記櫛歯ラインパタンと反転関係の「櫛歯ラインをなす透明地パタン」としたものである。すなわち、エッジライトパネルにおける照明と導光とを、本願発明は、微小多数の網点とその反転網目によって行うのに対して、引用例記載のものは、寸法が不明な櫛歯ラインによって行うものであり、したがって、本願発明は、網点がそれぞれ乱反射して微小多数の点状の照明光となり、また、網点を囲繞する外周の網目が反射を繰り返して入射光の光源離隔方向に導く囲繞状態の導光を行うのに対して、引用例記載のものは、櫛歯ラインが一連に乱反射して寸法不明の線状の照明光となり、また、このラインの側部のラインが反射してライン状の導光を行うものとされているから、照明の形態及び導光の形態を本質的に異にしている。

〈2〉 本願発明は、入射光乱反射量と入射光反射量とを増減逆変化させるように、「上記網点パタンにおける隣接相互に等間隔の網点位置関係を不変に維持した不変位置関係で」、すなわち、網点の位置関係をそのままにして、一切これを偏位させたり、ずらしたりすることなく、「入射端面側から光源離隔方向面内所定位置に向けて網点パタンの網点面積を膨出径大状に無段階漸増するとともに透明地パタンの反転網目面積を収縮幅細状に無段階漸減し、上記網点パタンの網点と該網点を囲繞した上記透明地パタンの反転網目とを面積増減逆変化の相関関係」としたものであるのに対して、引用例記載のものは、上記櫛歯ラインパタンのライン構成に際して、入射端面側から光源離隔方向面内所定位置に向けて、面積変化のない同一径円群を外接状一連に連結し、同一径円群毎に、ライン構成要素の円を偏位させてその面積を段階増加し、また透明地パタンの反転櫛歯ライン面積を段階減少して、櫛歯ラインのラインと該ラインの側方の透明地パタンの反転櫛歯ラインとを面積変化の相関関係としたものである。したがって、本願発明は、微小多数点状の網点の乱反射を、網点としての独立性と位置関係を確保することを基本として光源離隔方向に照明光の光量を無段階漸増する一方、網点を囲繞する外周の網目の導光のための反射量をその網目の全体にわたって減少するものとしたのに対して、引用例記載のものは、寸法不明のラインの乱反射をあくまでラインとして行うことを基本として、照明光の光量を所定長さの同一径円群で同一とし、かつ同一径円群で段階増加する一方、櫛歯ラインの導光のための反射量をライン方向のみに向けて減少するものとしたものであり、照明と導光における入射光コントロールの形態を本質的に異にしている。

3  相違点及び作用効果についての判断の誤り(取消事由3)

(1) 本願発明は、「エッジライトパネルによる面照明を実用化し得るように、輝度とその均一性の双方を備えたエッジライトパネルを提供」することを目的としており(甲第3号証の1第4頁10行ないし13行)、そのために、印刷技術分野の網点パタンと反転網目の透明地パタンを入射光乱反射の手段と導光の手段として輝度確保を行う一方、均一化のためにこれらの面積変化を行うようにしたものである。

しかるに審決は、本願明細書記載の上記課題、解決手段の説明を無視し、均一性の確保のみが本願発明の課題であると把握し、専ら均一性確保の容易性についての判断をしたに止まるものであって失当である。

また、審決は、「仮想線群の縦横の配列を等間隔とする」ことによって、引用例から本願発明が得られるとしている。しかし、引用例の第5図において、光源側の仮想線群の間隔を基準として等間隔にすると、外接一連の円は、外接状態からオーバーラップの重なり状態となってしまうし、一方、光源から離れた最大径側の仮想線群の間隔を基準として等間隔とすると、円を分離することは可能であるが、円が大きく離れてしまい、その結果、審決のいう「明るさの均一化」と相反することになる。すなわち、単に仮想線群の配列を等間隔にしても、相違点に係る本願発明の構成である「等間隔の網点位置関係」のパターンが得られないか、「明るさの均一性」が得られないかのいずれかになる。

したがって、「引用例に記載された、光源から離れる方向に延びる各円の中心点を結んだ仮想線群を等間隔とする技術から、均一度をさらに高めるために、仮想線群の縦横の配列を等間隔とする程度のことは、当業者が容易に想到し得ることである。」とした審決の判断は誤りである。

(2)〈1〉 甲第8号証に記載のとおり、光の入射に対する直角方向でのムラの発生が、本願発明の実施品では1%未満であるのに対し、引用例記載の発明の実施品では10%前後である。本願発明が、引用例記載のものに比べて、上記のような顕著な作用効果を奏するのは、本願発明では、円形は網点、すなわち上下左右等間隔に配置され、単位当たりの反射割合(円形面積/面積)が円形の面積に比例するのに対して、引用例記載のものでは、円形はすべて接触しているので、単位当たりの反射割合が1個の円形の面積×その円形の面積の個数によって決められているという、幾何学上の原理が異なることによるものである。

〈2〉 濃淡の陰影をそのまま円の面積に比例させた原画(原図)を作成する機器が市販されているから、本願発明における等間隔の網点パターンは容易に設計製作でき、実施品の製造も引用例記載のものに比較して容易である。

〈3〉 本願発明は、エッジライトパネルによる面照明、すなわちエッジライト方式のバックライトを直接に実用化した発明であり、本願発明によって、今日市場規模100億円以上といわれる、特に液晶バックライト市場が形成され、明るく、均一な照明を行う、薄く、省電力の特徴により、特に携帯用のポータブルワープロやラップトップコンピュータのほとんどすべてに用いられている状況にある。エッジライト方式の面照明に関しては、引用例を含め、その原理は公知であるが、いずれもその実用化をなし得なかったものであり、原告が多大の苦闘の末に実用化したものである。

本願発明の実施品は商業的成功の典型的な例であり、この点は、作用効果の顕著性を根拠づけるものである。

〈4〉 したがって、本願発明の作用効果について別段著しいものではないとした審決の判断は誤りである。

第三  請求の原因に対する認否及び反論

一  請求の原因一ないし三は認める。同四は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

二  反論

1  取消事由1について

(1) 引用例(甲第4号証)の特許請求の範囲には、「平板状の透明基板、この透明基板の端面から照明光を入射する光源、上記透明基板の一方の平面に接するように設けられ上記光源から遠ざかるほどその面積が大となるように形成されている光拡散反射体、上記透明基板の他方の面を覆う光一部透過性を有する光拡散反射体を備えた面照明装置。」と記載されており、発明の詳細な説明の項には、「上記実施例では透明基板(1)の背面(1b)に拡散性をもつ白色のペイント層(7)を各部の光強度に応じて分布させたパターンを第4図に示したが、透明基板(1)の各部の光強度に応じて、特に反比例的に拡散性を分布して設けることがこの発明の1つの大きなポイントであり、透明基板の表面そのものを凸凹にしたものでもよく、またそのパターンがかならずしもくし形パターンである必要はない。」(3頁左下欄1行ないし8行)と記載されているように、引用例のパターンは、櫛歯ラインパタンに限られるものではない。

そして、引用例には、第5図について、「たとえば、第5図に示すように多数の直径の異なる円形状のパターンを印刷して、その印刷された部分の面積密度を各場所で変えた、すなわち面積密度を場所によって密度変調して全体としては、拡散体(7)の効果が第4図(a)と同じとなるようにしたものや、・・・のパターンによっても同様な効果が得られる。」(3頁左下欄9行ないし18行)と記載され、第4図に示すものの効果として、「第4図に示すものに於いては透明基板(1)の背面(1b)に一様に白色に塗布されたペイント層(7)のように光拡散性に分布をつけていない従来のものの輝度分布(第2図(a))に較べてはるかに均一な輝度分布が得られることになる(第3図(c))。」(3頁右上欄8行ないし13行)と記載されている。

すなわち、引用例には、第5図に示す円形状パタンのものは、第4図(a)に示される櫛歯パタンの効果として第3図(c)に実線Aで示されるのと同じように均一な輝度分布が得られると記載されているのである。

(2) 引用例の第5図のパタンと本願発明の網点パタンとを比較する際に、両者ともに、多数の円が縦横に規則的に配置されたパタンを含んでいるために、審決は、その各円の中心点を縦横に結んだものを仮想線とし、これらの多数の仮想線からなるものを仮想線群として、両者を比較しているのである。

しかして、審決は、引用例の記載事項につき、その理由説示のとおり認定したものであって、原告主張の誤りはない。

2  取消事由2について

(1) 引用例記載の「規則的に配置された」「多数の円」も、本願発明の「網点」も、ともに「規則的に配置された多数の円」といえるものであり、引用例記載の「面照明装置の構成要素の一部であるパネル」は、本願発明の「エッジライトパネル」に相当する。したがって、本願発明と引用例記載のものとは、審決認定の点でのみ相違し、その余の点に実質的な差異はない。

(2) 原告は、エッジライトパネルにおける照明と導光とを、本願発明は、網点とその反転網目によって行うのに対して、引用例記載のものは、櫛歯ラインによって行うものであり、照明の形態及び導光の形態を異にしていると主張している。

しかし、引用例記載のものは、櫛歯ラインに限られるものではなく、第5図に示される多数の直径の異なる円形状のパタンのものは、円形状パタンにおいて「入射光乱反射」を行うものであり、円形状パタンと反転をなす地パタンが「入射光反射」を行うものであるから、照明の形態及び導光の形態に実質的な差異はない。

また原告は、本願発明と引用例記載のものとは、照明と導光における入射光コントロールの形態を本質的に異にしている旨主張している。

しかし、引用例記載のものが櫛歯ラインに限られるものでないことは前述したとおりである上に、引用例記載のものは、その特許請求の範囲に記載されたとおり、「透明基板の一方の平面に接するように設けられ上記光源から遠ざかるほどその面積が大となるように形成されている光拡散反射体」を設けるものであって、その具体例として第3図(b)及び第4図(b)に拡散度Dで示しているものであり、当然第5図の円形状のパタンのものも同じように、端面方向に行くほど円形状パタンの印刷面積は小さくなるものであり、すなわち、面積密度が密度変調されているのであるから、その面積は無段階漸増するものであり、その反転透明地パタンは無段階漸減するものであるから、照明と導光における入射光コントロールの形態に実質的な差異はないのである。

3  取消事由3について

(1) 引用例においては、輝度を一定にする従来例について述べた後、「従来の面光源装置は以上のように構成されているので、広い面積にわたって均一な発光を得ることができなかった。また光の多くが利用できない方向へ散いつしてしまい光の利用効率が相対的に低かった。」(2頁左下欄1行ないし5行)という欠点を除去するために、「まず第1に光の透過性をもつ透明基板表面に光強度に応じた光拡散性を分布してもたせることにより、均一発光が得られるものはもとより任意の発光輝度分布を有する面光源装置を提供することを目的としている。」(2頁左下欄7行ないし11行)と記載されており、さらに輝度については図面第3図(c)に実線Aで示されるように均一な輝度分布が得られているのである。

(2) 原告は、本願発明は輝度確保を行う一方、均一化のために網点の面積変化を行うようにしたものであるのに、審決は、本願明細書記載の課題、解決手段の説明を無視し、均一性の確保のみが本願発明の課題であると把握し、専ら均一性確保の容易性についての判断をしたに止まる旨主張している。

しかし、前述したとおり、引用例においては、均一な輝度分布については具体的に記載されているのに対して、本願明細書においては、抽象的に記載されているだけで、具体的な裏付けは何も記載されていないのであるから、審決は、輝度については差異はないと判断し、均一性についてのみ判断したものであって何ら失当ではない。

(3) 原告は、本願発明の実施品は商業的成功の典型的な例であり、この点は、作用効果の顕著性を根拠づけるものである旨主張している。

しかし、進歩性の判断は、明細書に具体的に記載された内容について行うものであり、この点について、本願明細書においては、その効果について単に抽象的に述べるに止まるだけであり、従来のものと比べて具体的にどの程度の差異があるのか一切記載されていないのであるから、このような明細書に基づいては、本願発明が格別の効果を有するものと肯定すべき根拠はないのである。

第四  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)、三(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

1  取消事由1について

(1)〈1〉  引用例に、「透明基板と、その背面上に部分的に形成された光拡散反射体とを具備している、面照明装置の構成要素の一部であるパネル。」が記載されていることについては、当事者間に争いがない。

〈2〉  第4号証によれば、引用例の特許請求の範囲第1項には、「平板状の透明基板、この透明基板の端面から照明光を入射する光源、上記透明基板の一方の平面に接するように設けられ上記光源から遠ざかるほどその面積が大となるように形成されている光拡散反射体、上記透明基板の他方の面を覆う光一部透過性を有する光拡散反射体を備えた面照明装置。」と記載され、発明の詳細な説明の項には、「上記実施例では透明基板(「透基板」とあるのは誤記と認める。)(1)の背面(1b)に拡散性をもつ白色のペイント層(7)を各部の光強度に応じて分布させたパターンを第4図に示したが、透明基板(1)の各部の光強度に応じて、特に反比例的に拡散性を分布して設けることがこの発明の1つの大きなポイントであり、・・・そのパターンがかならずしもくし形パターンである必要はない。たとえば、第5図に示すように多数の直径の異なる円形状のパターンを印刷して、その印刷された部分の面積密度を各場所で変えた、すなわち面積密度を場所によって密度変調して全体としては、拡散体(7)の効果が第4図(a)と同じとなるようにしたものや、・・・同様な効果が得られる。」(3頁左下欄1行ないし18行)と記載されていることが認められる。(引用例の図面については別紙図面参照)

引用例の上記記載及び第5図によれば、引用例の第5図には、透明基板の背面上に部分的に形成された光拡散反射体が、光源から離れるに従いその径が次第に大きくなる多数の円が縦横に規則的に配置されたパターンとして示されているものと認められる。

次に、審決のいう「仮想線群」は、引用例に明示的に記載されているわけではなく、第5図に記載のパターンを説明するために、各円の中心点を縦横に結んだものを表すものとして用いられているものと認められるところ、この仮想線群を前提とすると、第5図記載のものにおいて、縦方向の仮想線群、すなわち光源から離れる方向に延びる仮想線群は等間隔に並んでおり、横方向の仮想線群、すなわち光源と平行に延びる仮想線群は円の径が拡大するのに伴い次第にその間隔が広がっているものと認められる。

〈3〉  以上〈1〉、〈2〉によれば、引用例には、「透明基板と、その背面上に部分的に形成された光拡散反射体とを具備しており、該反射体は、光源から離れるに従いその径が次第に大きくなる多数の円が縦横に規則的に配置されたパターンを含み、その各円の中心点を縦横に結んだ仮想線群のうち、光源から離れる方向に延びる仮想線群は等間隔に並んでおり、光源と平行に延びる方向の仮想線群は円の径が拡大するのに伴い次第にその間隔が広がっていく、面照明装置の構成要素の一部であるパネル。」が記載されているとした審決の認定に誤りはないものというべきである。

(2)〈1〉  原告は、請求の原因四項1(1)掲記の理由により、引用例記載のものは、「光源側から太さを段階的に太くするラインを構成するように同一径円群毎に直径の異なる円をそれぞれ外接状一連に連結した櫛歯ラインパタン」であって、引用例には、「光源から離れるに従いその径が次第に大きくなる多数の円が縦横に規則的に配置されたパターン」が示されているとした審決の認定は誤りである旨主張する。

引用例には、上記認定のとおり、「第5図に示すように多数の直径の異なる円形状のパターンを印刷して、その印刷された部分の面積密度を各場所で変えた、すなわち面積密度を場所によって密度変調して全体としては、拡散体(7)の効果が第4図(a)と同じとなるようにしたもの」として、第5図に記載の光拡散反射体も、櫛歯ラインパタンである第4図(a)の拡散効果と同様のものが得られると記載されている。しかし、第5図には、「パターンがかならずしもくし形である必要はない」(甲第4号証3頁左下欄7行、8行)ものの例として、多数の円から構成されているものが示されているのであって、第5図に記載のものは櫛歯ラインパタンそのものではないし、また、第5図に記載されている「多数の円」は、櫛歯ラインパタンのラインを構成する構成要素としての意味があるというものでもない。そして、第5図に記載の一連の円は、厳密にいえば、光源から離れるに従いその径が各円毎ではなく、各円群毎に大きくなっているものであるが、引用例の特許請求の範囲には、上記のとおり、「光源から遠ざかるほどその面積が大となるように形成されている光拡散反射体」と記載されており、全体的にみれば、光源から離れるに従いその径が次第に大きくなっているものといって差し支えないものと認めるのが相当である。

したがって、審決の上記認定に誤りがあるとはいえず、原告の上記主張は採用できない。

〈2〉  原告は、請求の原因四項1(2)掲記の理由により、引用例には、「各円の中心点を縦横に結んだ仮想線群のうち、光源から離れる方向に延びる仮想線群は等間隔に並んでおり、光源と平行に延びる方向の仮想線群は円の径が拡大するに伴い次第にその間隔が広がっていく」ものが記載されているとした審決の認定は誤りである旨主張する。

審決が「各円の中心点を縦横に結んだ仮想線群」という概念を設定したのは、第5図に記載のパターンを説明するためであるところ、前記のとおり、第5図のパタンは櫛歯ラインパタンではなく、多数の円から構成されているものであるから、各円の中心点を縦横に結んだものを表すものとして「仮想線群」を持ち出したことに何ら技術的意味がないとはいえず、また、引用例の開示技術を曲解するものであるということもできない。

次に、第5図に記載されている一連の円は、厳密にいえば、横方向においては、その中心点が一直線上に位置するものとして図示されておらず、したがって、これらを結ぶ仮想線群はわずかに屈曲しているものも存するものと認められる。しかし、同図は、多数の直径の異なる円形状のパターンを印刷した一例を示すものであって、必ずしもその配置関係を正確に表示しているものではないのであって、同図の表示態様からいって、各円の横方向の中心点を結んだ線は、光源にほぼ平行であると認められるから、各円の横方向の中心点を結んだ線は、「光源と平行に延びる方向の仮想線群」であるといって差し支えないものというべきである。

また、前記のとおり、第5図に記載の一連の円は、各円群毎にその径が大きくなっているが、全体的にみれば、光源から離れるに従いその径が次第に大きくなっているものということができ、したがって、光源と平行に延びる方向の仮想線群は円の径が拡大するのに伴い、「次第にその間隔が広がっていく」ということができる。

したがって、審決の上記認定に誤りはなく、原告の上記主張は採用できない。

(3)  以上のとおりであって、取消事由1は理由がない。

2  取消事由2について

(1)  引用例に審決摘示の記載があることは、上記1(1)に認定のとおりである。

引用例記載の透明基板の背面上に部分的に形成された光拡散反射体は、「規則的に配置された多数の円」であるが、本願発明における「網点」は、その特許請求の範囲の記載から明らかなように、エッジライトパネルの透明基板一側表面にあって、入射光を乱反射させるものであり、本願明細書の発明の詳細な説明に「網点パタンは、微小無数の網点を隣接相互に等間隔の位置関係として、規則的に配列分布した」(甲第3号証の1第9頁6行ないし8行)と記載されていることに照らしても、同様に、「規則的に配置された多数の円」といえるものであると認められる。

そして、引用例記載の「面照明装置の構成要素の一部であるパネル」が、本願発明の「エッジライトパネル」に相当することは、当事者間に争いがない。

以上によれば、審決のした一致点及び相違点の認定に誤りはないものというべきである。

(2)〈1〉  原告は、請求の原因四項2(2)〈1〉掲記のとおり、エッジライトパネルにおける照明と導光とを、本願発明は、微小多数の網点とその反転網目によって行うのに対して、引用例記載のものは、寸法が不明な櫛歯ラインによって行うものであり、したがって、本願発明は、網点がそれぞれ乱反射して微小多数の点状の照明光となり、また、網点を囲繞する外周の網目が反射を繰り返して入射光の光源離隔方向に導く囲繞状態の導光を行うのに対して、引用例記載のものは、櫛歯ラインが一連に乱反射して寸法不明の線状の照明光となり、また、このラインの側部のラインが反射してライン状の導光を行うものとされているから、照明の形態及び導光の形態を本質的に異にしている旨主張する。

しかし、引用例記載の透明基板の背面上に部分的に形成された光拡散反射体は、櫛歯ラインのものに限られるものではなく、第5図に記載のものは、多数の円から構成されているものであって、櫛歯ラインパタンではない。そして、引用例の「第5図に示すように多数の直径の異なる円形状のパターンを印刷して、その印刷された部分の面積密度を各場所で変えた、すなわち面接密度を場所によって密度変調して全体としては、拡散体(7)の効果が第4図(a)と同じとなるようにした」(甲第4号証3頁左下欄9行ないし14行)との記載に照らしても、円形状のパタンにおいて入射光乱反射を行い、円形状パタンと反転をなす透明地パタンにおいて入射光反射を行うものであることは明らかであるから、照明及び導光の各形態において、本願発明の場合と実質的な差異があるとは認め難い。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

〈2〉  原告は、請求の原因四項2(2)〈2〉掲記のとおり、本願発明は、「入射端面側から光源離隔方向面内所定位置に向けて網点面積を膨出径大状に無段階漸増するとともに透明地パタンの反転網目面積を収縮幅細状に無段階漸減し、上記網点パタンの網点と該網点を囲繞した上記透明地パタンの反転網目とを面積増減逆変化の相関関係」としたものであるのに対して、引用例記載のものは、櫛歯ラインパタンのライン構成に際して、入射端面側から光源離隔方向面内所定位置に向けて、面積変化のない同一径円群を外接状一連に連結し、同一径円群毎に、ライン構成要素の円を偏位させてその面積を段階増加し、また透明地パタンの反転櫛歯ライン面積を段階減少して、櫛歯ラインのラインと該ラインの側方の透明地パタンの反転櫛歯ラインとを面積変化の相関関係としたものであり、したがって、本願発明は、微小多数点状の網点の乱反射を、網点としての独立性と位置関係を確保することを基本として光源離隔方向に照明光の光量を無段階漸増する一方、網点を囲繞する外周の網目の導光のための反射量をその網目の全体にわたって減少するものとしたのに対して、引用例記載のものは、寸法不明のラインの乱反射をあくまでラインとして行うことを基本として、照明光の光量を所定長さの同一径円群で同一とし、かつ同一径円群で段階増加する一方、櫛歯ラインの導光のための反射量をライン方向のみに向けて減少するものとしたものであり、照明と導光における入射光コントロールの形態を本質的に異にしている旨主張する。

しかし、引用例記載の透明基板の背面上に部分的に形成された光拡散反射体は、櫛歯ラインのものに限られるものではなく、第5図に記載のものは、多数の円から構成されているものであって、櫛歯ラインパタンではないことは前記のとおりである。そして、引用例の特許請求の範囲における「透明基板の一方の平面に接するように設けられ上記光源から遠ざかるほどその面積が大となるように形成されている光拡散反射体」との記載、及び、引用例の第3図(b)及び第4図(b)(引用例発明の実施例の反射拡散体による拡散度の分布図)に示されている拡散度Dの形態に照らすと、第5図記載のものも、入射端面側から光源離隔方向面内所定位置に向けて円形状パタンの面積は無段階漸増するとともに、反転透明地パタンの面積は無段階漸減するものと認めるのが相当であるから、照明と導光における入射光コントロールの形態において、本願発明の場合と実質的な差異があるとは認め難い。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

(3)  以上のとおりであって、取消事由2は理由がない。

3  取消事由3について

(1)〈1〉  本願明細書(甲第3号証の1)には、本願発明について、「その解決課題とする処は、エッジライトパネルによる面照明を実用化し得るように、輝度とその均一性の双方を備えたエッジライトパネルを提供するにある。」(4頁10行ないし13行)、「網点パタンの網点が入射光の乱反射による照明を、透明地パタンの反転網目が入射光の反射による導光をそれぞれ分担的に行うように作用する一方、網点と反転網目の面積増減逆変化の相関関係が上記入射光の乱反射量と反射量を増減逆変化させるようにコントロールし、入射光の早期出光減耗を防止して、その可及的な有効活用を図り、輝度とその均一性の双方を確保するように作用する。」(6頁末行ないし7頁8行)、「輝度とその均一性の双方を兼備した面照明を行うエッジライトパネルを提供できることになり、従って薄型化、省電力化を達成して明るく均一な、従来の直下型に代るエッジライトパネルの面照明を直接に実用化することが可能となる。また網点と反転網目の面積増減逆変化の相関関係は、隣接相互に等間隔の網点位置関係を不変に維持した不変位置関係で行うことになるから、相関関係の設定が容易であるとともに輝度と均一性を逆に損ったりすることもない。」(15頁8行ないし18行)と記載されていることが認められる。

他方、引用例(甲第4号証)には、「従来の面光源装置は・・・、広い面積に渡って均一な発光を得ることができなかった。また光の多くが利用できない方向へ散いつしてしまい光の利用効率が相対的に低かった。この発明は、上記のような従来のものの欠点を除去するためになされたもので、まず第1に光の透過性をもつ透明基板表面に光強度に応じた光拡散性を分布してもたせることにより、均一発光が得られるのはもとより任意の発光輝度分布を有する面光源装置を提供することを目的としている。」(2頁左下欄1行ないし11行)、「広い面積にわたって均一な照明強度の面照明装置がえられる。」(4頁左上欄11行、12行)と記載されていることが認められる。

上記各記載によれば、本願発明も引用例記載の発明もともに、平面光源の明るさの均一化を達成することを技術課題としているものと認められるところ、その課題達成のための手段として、引用例の第5図には、縦方向、すなわち光源から離れる方向に延びる各円の中心点を結んだ仮想線群を等間隔とするものが示されているのであるから、より均一な明るさを得るために、横方向、すなわち光源と平行に延びる方向の各円の中心点を結んだ仮想線群についても等間隔とすることによって、各円(網点)の位置関係を隣接相互に等間隔に維持し、均一な配置とすることは、当業者において容易に想到し得る程度のことと認めるのが相当である。

したがって、相違点についての審決の判断に誤りはない。

〈2〉  引用例記載のものは、上記のとおり、「広い面積にわたって均一な照明強度の面照明装置がえられる。」ものであり、「第4図に示すものに於いては透明基板(1)の背面(1b)に一様に白色に塗布されたペイント層(7)のように光拡散性に分布をつけていない従来のものの輝度分布(第2図(a))に較べてはるかに均一な輝度分布が得られることになる(第3図(c))。」(甲第4号証3頁右上欄8行ないし13行)ものであるところ、第5図記載のものは、第4図(a)と同じ効果が得られるものであるから、同様に均一な輝度分布が得られるものである。

そして、本願発明において得られる明るさの均一性は、上記構成を採用することにより、当然予測し得る程度のものと認められる。

したがって、本願発明の作用効果についての審決の判断に誤りはない。

(2)〈1〉  原告は、本願発明は輝度とその均一性の確保を課題としているのに、審決は、均一性の確保のみが本願発明の課題であると把握し、専ら均一性確保の容易性についての判断をしたに止まるものであって失当である旨主張する。

上記(1)に認定のとおり、本願明細書には、本願発明は輝度とその均一性の双方が得られる旨記載されているが、輝度の確保をどのような構成によって達成するのかについて具体的な記載がないし、輝度自体について、本願発明と引用例記載のものとの間に特に差異があるとは認め難いから、審決が、輝度自体については取り上げず、専らその均一性確保の容易性について判断したからといって失当とはいえない。

また原告は、引用例の第5図において、光源側の仮想線群の間隔を基準として等間隔にすると、外接一連の円は、外接状態から、オーバーラップの重なり状態となってしまうし、一方、光源から離れた最大径側の仮想線群の間隔を基準として等間隔にすると、円を分離することは可能であるが、円が大きく離れてしまい、その結果、審決のいう「明るさの均一化」と相反することになるのであって、単に仮想線群の配列を等間隔にしても、相違点に係る本願発明の構成である「等間隔の網点位置関係」のパターンが得られないか、「明るさの均一性」が得られないかのいずれかになることを理由として、相違点についての審決の判断の誤りを主張する。

確かに、引用例の第5図における横方向の仮想線群の間隔自体を基準とすれば、原告が主張するような不都合が生じるであろうが、引用例の開示技術として、同図が示していることは、拡散効果が所定のものとなるように、円形状のパターンの面積密度を各場所で変えるということであって、明るさの均一性を達成するために、仮想線群の縦横の配列を等間隔のものとするならば、円の直径もそれに応じたものとすることによって、原告が主張するような不都合が生じないようにすることは当然のことであって、原告の上記主張は理由がない。

〈2〉  原告は、甲第8号証(実験ならびに写真撮影報告書)に基づき、また、本願発明では、網点が上下左右等間隔に配置されているのに対し、引用例記載のものでは、円形がすべて接触していることによる、幾何学上の原理が異なることを理由として、本願発明は、引用例記載の発明に比べて、明るさの均一性において顕著に優れている旨主張する。

甲第8号証記載の実験結果によれば、原告が本願発明の実施品として実験に供したものは、引用例の第5図に記載の反射拡散体パターンとほぼ同様のものに比べて、明るさの均一性が優れており、後者のものにおいては、多くの輝度ムラが存在していることが認められる。

しかし、本願発明が明るさの均一性を得るについて格別優れているか否かということは、引用例に開示されている技術事項、並びに、本願発明の構成を採択することの容易性及びその場合の作用効果の予測性等を総合的に判断してなされるべきものであるところ、前記のとおり、引用例記載の発明も明るさの均一性の確保を技術課題としていて、第5図記載のものも均一な輝度分布が得られるものであり、したがって、同図記載のものは、当然上記作用効果を実現する構成を有しているものと考えられること、また、本願発明におけるように網点の位置関係を隣接相互に等間隔に維持するようにすることは、当業者において容易に想到し得る程度のことであり、この構成により、より均一な明るさが得られることは予測し得る程度のものであることからすると、上記実験結果に基づいて、本願発明における明るさの均一性が顕著であると認めることはできない。また、第5図記載のものも、均一な輝度分布が得られる構成を有しているものと考えられるから、原告のいう幾何学上の原理の相違が、本願発明における均一な明るさの顕著性を裏付けるものとは認め難い。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

また原告は、濃淡の陰影をそのまま円の面積に比例させな原画(原図)を作成する機器が市販されているから、本願発明における等間隔の網点パターンは容易に設計製作でき、実施品の製造も引用例記載のものに比較して容易である旨主張するが、本願明細書には上記主張の趣旨に沿う記載はないし、本願発明が引用例記載のものに比べて上記の点で格別優れているとは認められない。

さらに原告は、本願発明の実施品は商業的成功の典型的な例であり、この点は、作用効果の顕著性を根拠づけるものである旨主張するが、一般に、商業的成功は、当該発明の実施品自体の優秀さのみによるものではなく、種々の非技術的な要素等との結合により達成されるものであるから、商業的成功を作用効果の顕著性を根拠づけるものとして取り扱うことは、原則として適切ではないし、本願発明の作用効果自体、格別のものとは認め難いことは叙上説示のとおりである。

したがって、本願発明の作用効果についての審決の判断は誤りである旨の原告の主張は採用できない。

(3)  以上のとおりであって、取消事由3は理由がない。

三  よって、原告の本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濱崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面

〈省略〉

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